余市リトルシニア、秋の現実と冬への覚悟
北海道西部、積丹半島の東の付け根に位置する余市町。
日本海と丘陵に囲まれたこの町で、余市リトルシニアは地域に根差した中学硬式野球チームとして活動を続けている。
11月27日、後志・余市町で冬季練習に励むチームを訪問した。
今秋の秋季全道大会・予選リーグは3勝3敗。決勝トーナメント進出に必要だったのは、あと一勝。
その「あと一勝」に何が足りなかったのか。
橋本正一監督、主将・池田崚駕、左腕・竹内蓮翔、そして浅野光来の言葉から、チームの現在地とこれからを見つめる。
余市町と、地域に支えられるチーム
余市町は人口約1万7千人。町の北側は日本海に面し、他の三方はなだらかな丘陵地に囲まれている。
縄文から続縄文時代の遺跡が数多く残り、古くから人が暮らしてきた歴史を持つ町だ。
余市リトルシニアには、車で1時間、2時間をかけて通う選手もいる。
「余市を選んでくれた」その重みを、指導者は誰よりも感じている。

うれしいOBの活躍
余市リトルシニアOBから、うれしい知らせが届いた。
2025年ドラフト会議において、宮下朝陽(みやした・あさひ)さんが横浜DeNAベイスターズからドラフト3位指名を受け、プロ野球の世界へと歩みを進めた。
宮下さんは北海道・黒松内町出身。学童時代は黒松内スターズに所属し、小学6年時には2015日本ハムファイターズJr.に選出。遊撃手としてチームを支え、その名を広く知られる存在となった。
中学では硬式野球の余市リトルシニアに所属。中学3年時には日本選手権に出場し、チームの全国舞台での戦いに大きく貢献した。同年のジャイアンツカップ北海道予選では決勝で札幌新琴似リトルシニアを11―4で下し、初優勝を成し遂げている。
北海高校へ進学後は、1年春から4番を任されるなど早くから中心選手として活躍。3年時には春夏連続で甲子園出場を果たし、2021年夏の甲子園1回戦・神戸国際大付戦では4番・遊撃手として出場し、4打数2安打と結果を残した。
大学は東洋大学に進学。大学2年の2023年には侍ジャパン大学日本代表にも選出され、全国、そして国際舞台でもその実力を証明してきた。大学日本代表経験を持つ内野手として、プロの世界でも即戦力としての活躍が期待されている。
余市から巣立ち、着実に歩みを重ねてきたOBのプロ入りは、
現在チームで汗を流す後輩たちにとって、大きな目標であり、何よりの励みとなる存在だ。

余市リトルシニア・橋本正一監督インタビュー― 秋季リーグ戦を振り返って ―
秋季リーグ戦を3勝3敗で終え、決勝トーナメント進出には「あと一勝」届かなかった余市リトルシニア。
その戦いを最前線で見つめてきた橋本正一監督が、結果以上に浮き彫りとなった課題と、チームに芽生え始めた変化、そして未来への指針を語った。
秋季リーグ戦で突きつけられた「体力」という現実
秋季リーグ戦を振り返り、橋本監督が真っ先に口にしたのは「体力不足」だった。
「小樽戦に7―4で勝って、石狩中央戦にも勝てましたが、
岩見沢戦では0―6で負けるなど、結果以上に課題が見えたリーグ戦でした。
一番感じたのは、体力不足ですね」
具体的に挙げたのは、試合終盤の失速だった。
「1試合を最後まで戦い切る体力が足りなかった。
札幌栄戦や石狩中央戦でも、4回以降に集中力が切れて、
大量失点する場面がありました」
点は取れるが、守り切れない。
終盤の体力と集中力の低下が、試合の流れを左右していた。
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「あと一勝」と競争意識が生んだチームの変化
決勝トーナメント進出の分岐点は、4勝2敗。
その「あと一勝」に届かなかった理由を、橋本監督はこう分析する。
「小樽戦で勝ち切れたことで、
『いけるかもしれない』という感触はありました。
ただ、点は取れても守り切れなかった。
体力が落ちることで、守備のミスも増えてしまいました」
2年生7人、1年生10人という編成。
1年生が多く試合に出場する中で、ミスもあった。
「ただ、逆に言えば、1年生が多くの経験を積めたということです」
そして、チーム内には確かな変化が芽生えている。
「2年生も『自分はレギュラー安泰ではない』と感じ始めています。
1年生の中には、グローイングノートに
『春にはレギュラーを取りたい』と書く選手も出てきました」
競争意識が生まれ始めたことを、指揮官は前向きに捉えている。

「勝負できる余市」を作るために
現時点でのチームの強みについて、橋本監督は中心選手の名前を挙げた。
「キャプテンの池田崚駕(共和JBC出身/2年)を中心に、
ピッチャーでは左の竹内蓮翔(黒松内・泊・留寿都野球少年団出身/2年)、右の澤口慶太(黒松内・泊・留寿都野球少年団出身/2年)。
特に左の竹内は貴重な存在です」
センターラインについても、一定の手応えを感じている。
「秋はセカンドに澤口、ショートには1年生の越後壱星(古平野球スポーツ少年団出身)、センターには1年生の笹山陽久(余市強い子野球スポーツ少年団出身)が入りました。
センターラインが安定すれば、チーム全体も落ち着いてくると思います。」
勝ち切るチームになるために、最優先事項は明確だ。
「体力強化。それと団結力、気持ちの強さ。
技術以前に、終盤でも集中を切らさず戦えるメンタルを身につけさせたい」
春には道外遠征も控える。
「今年の春は三重県・伊勢にも行きました。
3泊4日の遠征で、野球だけでなく、
生活面や人間関係の成長も感じました」
地域クラブとしての想いも、強い。
「車で2時間かけて来てくれる選手もいます。
余市リトルシニアを選んでくれたことに、感謝しかありません。
その想いに応えられる指導をしていきたい」
最後に掲げたキーワードは、3つ。
「体力・団結力・気持ちの強さ。
いろんな経験を積ませて、
また『勝負できる余市』を作っていきたいと思います」
「あと一勝」の悔しさを、次の力へ。
橋本正一監督の言葉には、静かな覚悟と確かな方向性がにじんでいた。
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主将・池田崚駕インタビュー―「あと一歩」を越えるために ―
余市リトルシニアの主将を務める池田崚駕。
声を出し、指示を出しながらチームを動かすタイプのキャプテンだ。
秋季リーグ戦を終え、「あと一歩」に届かなかった現実と、そこから見えた課題、そして未来への覚悟を語った。
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「良い大会ではなかった」――主将として見つめた秋
秋季リーグ戦は3勝3敗。
主将としての自己評価は、率直だった。
「正直、あまり良い大会だったとは思っていません。
途中まで良かった試合もありましたが、
最後まで良い形で戦えた試合は少なかったです」
例えば札幌栄リトルシニア戦。
流れをつかみかけながら、終盤に一気に崩れてしまった。
「バッティングもそうですが、守備の一歩ですね。
大事な場面で一歩届かなかったり、
ワンプレーで流れを切れなかった。
その小さな差が積み重なったと思います」
「あと一勝」の重みを、誰よりも強く感じていた。
声で引っ張るキャプテンとして
池田が自らを表現するキャプテン像は明確だ。
「自分はチームの中でも声が出る方なので、
声を出して引っ張るタイプだと思います。
指示を出しながら、チーム全体を動かしていきたいです」
キャプテンとして最も悔しかった試合は、空知滝川リトルシニア戦だった。
「初戦(札幌栄)に勝って、そのまま少しふわっとした入りになってしまいました。
相手の流れに飲まれて負けてしまいました」
試合の入り方と集中力。
その重要性は、チーム内でも話し合ったという。
「まずは体力をつけること。そして守備力強化。
その上で、集中力を切らさないことが必要だと感じています」
仲間とともに、「次の一歩」へ
1年生の存在について、池田は前向きに捉えている。
「守備面でも、1年生がかなりチームを助けてくれています。
試合に出る機会も多くて、すごく力になっています」
チームとして、これから強化したいのは「声」。
「守備中の会話が増えれば、ミスも減ると思います。
声を中心に、チームを変えていきたいです」
個人としての課題も、はっきりしている。
「調子の浮き沈みがあるところです。
安定したバッティングを身につけたいです」
そして、将来の目標は揺るがない。
「中学3年生で全国大会に出場して、全国制覇すること。
この代で全国に行きたい。
そのために、キャプテンとしても覚悟を持ってやっていきます」
チームでカギを握る存在として、副キャプテンという肩書きではないものの、左投げ左打ちの竹内が1年生をまとめる役割を担い、チームを支えている。
「ピッチャーとしては苦しい場面もありましたが、
バッティングでは全試合で結果を出してくれました。
主に3番を打っていました」
仲間を信じ、声で導く。
主将・池田崚駕は、「あと一歩」を越えるための戦いを、すでに始めている。
〇池田 崚駕(いけだ りょうが)
余市リトルシニア/2年
右投げ、左打ち
168センチ、75キロ
野球を始めたのは小学2年生の頃、兄の影響で共和ジュニアベースボールクラブで野球を始める。
家族は両親と兄と4人。
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竹内蓮翔インタビュー― 感情を越えて、投手として一段上へ ―
左投げ左打ち。
変化球を軸に試合を作る投手として、余市リトルシニアのマウンドを支えてきた竹内蓮翔。
秋季大会では先発も任され、手応えと課題の両方をはっきりと感じたシーズンとなった。
変化球で勝負する投手としての現在地
竹内は、家から車で約40分をかけてグラウンドへ通っている。
家族は両親と兄の4人家族。日々の支えの中で、投手としての成長を重ねている。
持ち球はストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップ。
「自分はスピードで押すというより、
変化球で打たせて取るタイプだと思っています」
球速を測った経験は特にない。
その言葉通り、投球スタイルは冷静で、試合の流れを作ることに重きを置いている。
秋季大会で突きつけられた「感情」という課題
秋季大会では、岩見沢戦と石狩中央戦と大空戦で先発を経験した。
大空戦を振り返ると、こう語る。
「エラーが絡んだ場面があって、
そこで甘いところに投げてしまい、打たれました」
自身の課題として挙げたのは、技術ではなく感情の部分だった。
「味方のエラーが出ると、
『なんでここで…』ってイライラしてしまって、
制球が乱れるところです」
一方で、岩見沢戦には手応えも感じている。
「内容は悪くなかったですが、
エラーが重なって失点してしまいました」
結果以上に、自分の投球そのものを冷静に見つめていた。
春へ向けて、感情を越えた先に
感情をどうコントロールするか。
その問いに対し、竹内はシンプルな答えを持っている。
「なるべくイライラしないで、
自分を信じて淡々と投げることを意識しています」
春までに身につけたいことも明確だ。
「フォームが安定しないところがあるので、
下半身をしっかり使って、フォームを安定させたいです。
そうすれば、球速もコントロールも良くなると思っています」
春の遠征に向けた仕上がりの目標は「80%」。
「秋は大差で負ける試合が多かったので、
それを逆にして、
自分たちが大差で勝って、優勝したいです」
来年、勝ち上がるためのキーマンとして名前を挙げたのは浅野だった。
「ランナーがたまった場面で回ってくることが多いので、
持ち味のバッティングをもっと活かして、点を取ってほしいです」
感情を抑え、フォームを安定させる。
その先に、投手・竹内蓮翔が目指す“一段上”の姿がある。
〇竹内 蓮翔(たけうち れんと)
余市リトルシニア/2年
左投げ、左打ち
171センチ、57キロ
小学1年生の時に兄の影響で黒松内・泊・留寿都野球少年団で野球を始める。
家族は両親と兄の4人。
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浅野光来インタビュー―「つなぐ意識」と「火がついた時の爆発力」―
余市リトルシニアで主に7番を任され、打線の流れをつなぐ役割を担ってきた浅野光来。
秋季大会を終えた今、悔しさと手応え、その両方を胸に刻みながら次の春を見据えている。
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「あと一勝」に残った悔しさと、流れの怖さ
秋季大会の結果は3勝3敗。決勝トーナメント進出まで、あと一勝に届かなかった。
「チームとしても、個人としても、とても悔しい大会でした。あと1勝できていれば決勝トーナメントに進めたと思うので、そこが一番悔しいです」
今秋、特に印象に残っている試合として挙げたのが、札幌栄戦だ。大量リードから一転する、厳しい展開となった。
「5回に10点を奪いましたが、次の回に一気に9点を返されてしまいました。少し気を抜くだけで、流れが一気に変わってしまう。チームのもろさが出た試合だったと思います」
空知滝川戦も含め、流れの怖さと勝負の厳しさを強く実感した大会となった。
7番打者としての役割と、守備での意識
今季、浅野が打席で最も大切にしていたのは「つなぐ意識」だった。
「まずは最低限の仕事をすることです。自分で決めようとしすぎず、『後ろには仲間がいる』と思って、つなぐ意識を大事にしています」
その姿勢が、結果に結びついた場面もあった。
「札幌栄戦の大事な場面で、センターオーバーの二塁打を打って2点を取れたことがありました。それがきっかけで打線に火がつき、一気に10得点につながりました」
守備では、竹内が登板時はファースト、竹内がファーストに入る際にはDHで出場。状況に応じた役割を担った。
ファーストの守備については、次のように語る。
「『いつでもボールが来る』というイメージを持ち、準備を切らさないことを意識しています」
大会序盤は課題も多かったが、後半にかけて安定感は増していった。
「最初は課題だらけでしたが、大会の後半にいくにつれて良くなってきたと思います」
チームの強みと、最上級生として迎える春
浅野が感じるチームの強みは、流れに乗った時の破壊力だ。
「流れに乗った時の爆発力です。
一度火がつくと、打線が止まらなくなる」
一方で、課題もはっきりしている。
「エラーが出ると、そこから連鎖して崩れてしまうところです。
その流れを止められるチームにならないといけないと思っています」
春には遠征も控える。最上級生としての自覚も芽生えている。
「チームをまとめながら、背中で引っ張る存在になりたいです」
個人としての目標も、より具体的になった。
「もっと勝負どころで打点を挙げられる打者になりたい。
クリーンアップに近い役割も担えるように、
『ここぞ』で決められる選手になりたいです」
“つなぐ役割”から、“勝負を決める存在”へ。
浅野光来は、その一歩を確実に踏み出そうとしている。
〇浅野 光来(あさの こうき)
余市リトルシニア/2年
右投げ、右打ち
175センチ、77キロ
野球を始めたの小学4年生時にお父さんに進められて、朝里H・東小樽合同で始める。
家族は両親と祖父母と弟の6人。
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冬の積み重ねが、次の一勝を生む
体力、団結力、気持ちの強さ。
監督の言葉と、選手たちの声は同じ方向を向いていた。
「あと一勝」に届かなかった秋。
その悔しさを知っているからこそ、
余市リトルシニアは、この冬を無駄にしない。
静かに、しかし確実に。
「勝負できる余市」へ向けた歩みが、すでに始まっている。


協力:余市リトルシニア
