恵庭リトルシニア――“やり切る文化”が接戦を制す力に。

恵庭リトルシニア――“やり切る文化”が接戦を制す力に。

結束と修正力で挑む全国の舞台へ

秋季全道大会総括――投手と守備で体現した“恵庭の野球”

渡邊匠監督は、今秋のチームをこう振り返る。

「投手陣が本当に頑張ってくれました。守備のミスも少なく、自分たちの野球をしっかり出せた試合が多かったと思います」

恵庭のスタイルは、長打で一気に畳みかける野球ではない。
投手を軸に守備で試合を作る“粘りの恵庭”だ。

決勝トーナメントのスコアは

  • 1回戦・札幌東を2-1
  • 準々決勝・北広島を八回タイブレークの末2-1
  • 準決勝・とかち帯広には4-6の惜敗
  • 3位決定戦・大空に3-1
    と僅差が続き、ベスト16以降は1点差やタイブレークを勝ち切る戦いが続いた。

「昨年の3年生は延長タイブレークで悔しい負けも経験しています。今年はその反省も踏まえ、“練習を最後までやり切ること”を徹底しました。ダウンをして終わりではなく、整備・整列・挨拶までが練習。その姿勢が接戦を拾える力につながったと思います」

技術面で他チームが上回る部分もあったが、支え合う姿勢とまとまりが勝利を呼び込んだ。

ノックを打つ渡邉監督(恵庭)
ノックを打つ渡邊監督(恵庭)

前哨戦・KOKAJI CUP――自律が芽生えた栃木下野合宿

秋季全道の前哨戦となるKOKAJI CUPでも、選手たちは確かな成長を見せた。

夏には2年生と1年生が栃木県の栃木下野リトルシニアへ合宿
35〜36度の猛暑、朝6時起床、7:50練習開始、18時までという過酷な環境の中でも、誰ひとり倒れず最後までやり切った。

渡邊監督はその姿を誇らしく語る。

「練習試合をする段階ではないと判断し、終日、下野の通常練習に入りました。バックアップから徹底して走るなど、基礎の大切さを改めて学べたと思います」

特に印象的だったのは、朝のミーティングの光景だ。

栃木下野恵庭の各チームのキャプテンが集まり、
「今日の練習で何を意識するか」
を話し合ってからスタート。
自主性とコミュニケーションが自然と育つ環境に身を置いたことで、技術以上に“精神的な自立”が育まれた。

最終日には「秋はお互い頑張ろう」と春の全国、夏の選手権での再会を誓い合った。
冬は栃木下野を雪中の恵庭に受け入れる関係が続いている。

チームの強みと課題――“まとまり”と“ここ一番の一本”

秋季大会3位となり、全国選抜はほぼ確実な状況。
しかし、3位が決まった直後、チームには一時的な緩みが生まれた。

「そのままでは全国でコールド負けするぞ」

渡邊監督はすぐにチームを引き締めた。
現在は全国モードに切り替わり、良い練習が続いている。

強み

  • チームのまとまり
  • 支え合う姿勢
  • 接戦を落とさない粘り強さ

課題

  • ここ一番での一本が出ないこと

「北海道は投手力のあるチームが多く、どうしても打ち崩せない場面が続きました。冬は勝負強さを身に付けるため、打力強化とパワーアップを目指します」

外野手(恵庭)
外野手(恵庭)

目指すチーム像――全員が“切り替え”を体現するチームへ

渡邊監督はチームスタイルについて、

「オン・オフの切り替え、攻守交代のメリハリを徹底したい。半数ではなく、全員が同じレベルで切り替えられるチームにしたい」と語る。
戦術よりも、野球への向き合い方を重視する姿勢が際立っている。

新チームの軸――センターラインが恵庭の背骨

新チームの骨格はセンターラインだ。

  • エース/村田 日々人(千歳桜木メッツ出身/2年)
  • 捕手/千葉 恵太(副主将)(北広島イーストグローリー出身/2年)
  • 二塁/中山 絆(副主将)(野幌ファイターズ出身/2年)
  • 遊撃/中川 蓮太(北海道選抜・江別中央タイガース出身/2年)
  • 中堅/城間 奏良(主将)(千歳タイガース出身/2年)

渡邊監督は「この5人は考え方がしっかりしており、私のイメージする野球をよく理解してくれる」と信頼を寄せる。

村田投手(恵庭)
村田投手(恵庭)

攻撃の骨格

1番の中川は高いミート力と出塁率を武器に機動力野球をけん引。
3〜5番には捕手の千葉、三塁の松井恒太朗(柏ホエールズ出身/2年)、一塁の高橋央奨(深谷市リトルリーグ出身/2年)が並び、クリーンアップを形成する。

秋は“大きい当たり”よりも“確実につなぐ”野球を徹底。
代打/DHでは吉本琉以(柏ホエールズ出身/2年)のミート力が評価され、起用機会が増えた。

役割が噛み合った北広島戦――紙一重のタイブレーク勝利

 0-1の七回、8番の鍋城 皇(和光ジュニアライオンズ出身/2年)がヒットで出塁。
代走・荒木優宏(北広島イーストグローリー出身/2年)が盗塁で一死三塁をつくり、9番・中山が足をつりながらもバント成功。
1番・中川のセーフティースクイズで同点に追いついた。

 タイブレークでは、球数が残り1人の村田が先頭を三振に仕留め、二死満塁で左腕・黒木太偉河(恵庭ジュニアスワローズ出身/2年)へ継投。投手ゴロで切り抜けた。

八回裏、押し出し四球でサヨナラ勝ち。
まさに選手ひとり一人が役割を果たした勝利だった。

渡邊監督も「対戦した北広島の佐賀井投手、河嶋投手は非常に良かった。紙一重の試合を、村田がよく耐えてくれた」と振り返る。

キャッチボールの様子(恵庭)
キャッチボールの様子(恵庭)
キャッチボールの様子(恵庭)
キャッチボールの様子(恵庭)

恵庭投手陣の現在地――“修正力”を武器に戦う4枚

 選抜大会は3年ぶりの出場となる。
監督は2023年の選抜を振り返りながら、現在のチームづくりにもつながる「学び」について語ってくれた。

 当時、全国選抜大会が開催される大阪へ向かう前に、栃木県・下野リトルシニアのグラウンドを訪れて練習試合を行った。結果はまさかの15失点。
その大きな原因となったのが、外野手の「目測誤り」だった。

北海道では冬期、どうしても屋内練習が中心になる。久しぶりに土の見えるグラウンドでプレーする中、環境の違いにうまく対応できず、打球判断のズレが試合全体に影響してしまったのだ。

 その結果を受け、翌日も土のグラウンドに立ち、徹底的に外野ノックを繰り返して感覚を修正した。
渡邊監督は「ズレをその場で埋める作業が、全国大会で戦うには欠かせない」と語る。

初戦で対戦した大阪交野リトルシニアには1―2で敗れたものの、
「それなりにゲームは作れたと思います」と一定の手応えも感じていた。

その経験は、現在の新チームにも確実に活かされている。

  • 村田 日々人(千歳桜木メッツ出身/2年):重要試合を任されるエース
  • 三浦虎星(千歳桜木メッツ出身/2年):3位決定戦で完投、勝負強さが光る
  • 黒木太偉河(恵庭ジュニアスワローズ出身/2年):左腕として、大事な場面でワンポイントで起用できる存在は非常に貴重だ。
  • 三國凰介(江別中央タイガース出身‣2年):予選リーグでの登板は、左腕としての存在価値を強く印象付けた。

渡邊監督は
「課題に向き合い、その場で修正できることが秋の接戦を勝ち切れた理由」
と語る。

3位決定戦で先発完投の三浦投手(恵庭)
3位決定戦で先発完投の三浦投手、写真右・松井(恵庭)
投手(恵庭)
投手(恵庭)
捕手(恵庭)
捕手(恵庭)
内野手(恵庭)
内野手(恵庭)
外野手(恵庭)
外野手(恵庭)

背番号2の正捕手・秋谷、新天地へ――渡邊監督の“粋な贈り物”

正捕手としてチームを支えた秋谷は、父親の転勤により沼田町へ移住。
数あるチームの中、本人の強い希望で旭川西リトルシニアへの移籍を決めた。

渡邊監督はその胸中を明かす。

「手放したくない選手でした。しかし、距離や家庭のことを考えれば、新しい環境で野球を続ける方がいいと判断しました」

秋谷は12月の恵庭リトルシニア・卒団式に参加する予定で、仲間との再会を心待ちにしている。

そして渡邊監督は、秋季全道大会で秋谷が背負った背番号2のレプリカユニフォームを卒団式で特別に手渡すつもりだ。

選手への温かな思いがこもった、実に“粋な計らい”である。

一塁のベースカバーに向かう秋谷捕手(恵庭)
3位決定戦で最後の捕手を務め一塁のベースカバーに向かう秋谷捕手(恵庭)

新チーム主力3選手インタビュー

秋季全道大会を経て掴んだ手応えと課題、そして和歌山・全国選抜への決意

 秋季全道大会で3位となり、全国選抜出場がほぼ確実となった恵庭リトルシニア。
接戦を勝ち抜く中で見えた“強み”と“課題”、そして冬に向けて何を磨き、どんな姿で和歌山大会・選抜へ向かうのか。新チームの中心を担う3選手に話を聞いた。

キャプテン・城間奏良(2年)

課題は「走塁の共通認識」と「バントのシンクロ」冬は“全員でつなぐ力”を磨き、結果で示すキャプテンへ

▼ 秋季大会で見えた課題

城間は、秋季全道大会を通して見えた課題を「走塁」と「バント」の2点に整理する。

まず 走塁 では、ただ次の塁を狙うだけになり、チームで共有している基本動作が徹底されていない場面があったという。

  • ワンウェイの帰塁意識
     常に“戻る方向を優先する構え”で牽制死を防ぐ基本姿勢。
  • 投手が動いたら全員がすぐ帰塁する
     チームで統一している約束事。

これらの意識が全員に浸透しておらず、“走塁の共通認識のズレ”が細かなミスにつながっていた。

次に バント
バントは攻撃の流れをつくる重要なプレーだが、構えの遅れやランナーとのタイミングが合わない“シンクロ不足”が目立ったと振り返る。

「この冬は、バントの精度と準備を徹底し、チーム全体で確実に成功させられる力を身につけたい」と語った。

冬の強化と秋季大会で得た手応え

課題克服に向けて、すでに練習で意識共有に取り組んでいる。

「キャプテンとして自分ができても、チーム全員ができなければ意味がありません。選手同士で声を掛け合いながら取り組んでいます」

一方で、秋季大会で城間が強く感じたのは “チーム力”だった。

札幌大谷戦では渡邊監督が不在の中、コーチから「みんなで戦おう」と声がかかった。
するとベンチから大きな声援が生まれ、メンバー全員が試合を楽しみ、心に響く応援が続いたという。

「みんなで一勝することの難しさと楽しさを実感しました」

和歌山・選抜へ向けて

秋季大会ではつなぐ意識で勝ち切ったが、残塁も多かった。
「和歌山大会・選抜ではチャンスでしっかり打てるよう、バッティングを強化したい」と語り、特に勝負強い1番・中川蓮太への期待も口にした。

またキャプテン像については、こう決意を語った。

「先輩の酒井颯太さんのように“結果で示すキャプテン”になりたい。今は一生懸命な姿しか見せられていないので、自分も結果でチームを引っ張りたいです」

“すごい”と思った選手
  • 小瀬 朔(とかち帯広/1年/Nexus BBC)
    「1年生とは思えない強烈な打球。センターへのライナー2本の完成度に驚きました」

▼ 選手プロフィール
城間 奏良(しろま そら)/2年
千歳タイガース出身/右投右打
161cm・62kg
家族:両親・兄・弟の5人
6番・中堅/恵庭の主将としてチームをけん引する。

城間主将(恵庭)
バッティング練習中の城間主将(恵庭)
主将の城間(恵庭)
主将の城間(恵庭)

中川 蓮太(2年/北海道選抜)

札幌円山戦の“暴投”が残した教訓 守りの1プレーの重さと、チャンスでの一本を求めて

印象に残る試合

中川が挙げたのは 札幌円山リトルシニア戦

この試合では3安打の活躍を見せたが、最終回の守備でショートバウンドの送球が暴投となり、相手に余計な1点を与えてしまった。

「すごく悔しさが残っています。守備のミスが失点につながるという“1プレーの重さ”を痛感しました」

チームの強みと課題

強み

  • 苦しい場面を無失点で切り抜ける“守備力”
  • ピンチでの集中力と粘り強さ

課題

  • チャンスでの一本
    「チャンスは作れても返せなければ意味がない。勝負強さを冬に磨いていきたいです」
“すごい”と思った選手
  • 佐々木 脩真(札幌東/2年/山の手ベアーズ出身)
    「コントロール、変化球の使い方、打球の強さ。投打の完成度が非常に高かった」

▼選手プロフィール
中川 蓮太(なかがわ れんた)/2年
江別中央タイガース出身/右投左打
171cm・60kg
家族:両親・姉・兄の5人
北海道選抜入りの逸材。
チームでは1番・遊撃手として攻守の中心を担う。

北海道選抜にも選ばれた中川(恵庭)
北海道選抜にも選ばれた中川(恵庭)

中山 絆(2年/副キャプテン)

北広島戦の“勝負のバント”が生んだ同点劇 終盤の集中力を高め、チームの土台を支える存在へ

印象に残るプレー

中山が挙げたのは2つ。

旭川西戦のスクイズ成功
膠着状態の中、カウント3-2でスクイズのサイン。
これを確実に決め、貴重な1点を呼び込んだ。

北広島戦の勝負バント
0-1で迎えた七回、無死二塁。
足がつって走れない状況でも、確実にバントを決めて三塁に送り、同点のスクイズにつなげた。

「つなぐ形を作れたことが嬉しかったです」

チームの強みと課題

強み

  • 苦しい終盤でも見せる気持ちの強さ
  • 北広島戦でのタイブレーク0封に象徴される集中力

課題

  • 終盤の精神的揺らぎ
  • とかち帯広戦では終盤に被安打
    「終盤やタイブレークで集中力を維持できるよう、練習しています」
“すごい”と思った選手
  • 外山 凱士(北広島/2年/厚別ファイターズ出身)
    「走力も打球スピードも桁違い。生で見て衝撃を受けた選手です」

▼ 選手プロフィール
中山 絆(なかやま きずな)/2年
野幌ファイターズ出身/右投右打
153cm・46kg
家族:両親・姉・弟の5人
9番・二塁手。副主将としてチームの精神的支柱。

中山(恵庭)
ガッツ溢れる副主将の中山(恵庭)

恵庭リトルシニアの強さは、派手さではなく“積み重ね”にある。

秋季全道大会、そしてチーム訪問の取材を通して強く感じたことがある。
恵庭リトルシニアの強さは、豪快なホームランでも、突出したスター性でもない。

それは、もっと地道で、もっと勝負どころに表れる“日々の積み上げ”による強さ。
そして何よりも、彼ららしい「チームとしての力」だということだ。

例えば、プレーの一つひとつに見える“修正力”。
環境が変われば、自分たちを変える。
ミスが出れば、その場で埋める。
翌日にはもう同じ失敗をしない。

誰かが突出するのではなく、全員が自分の役割を理解し、全員が全うしようとする。
その姿勢は、決して華々しいものではない。だが、何よりも確かで、勝負の最後に効いてくる。

練習の最後の最後まで、気を抜かない文化も特徴的だ。
「体操が終わったら終わり」ではなく、グラウンド整備、整列、挨拶――
本当に“最後の一歩”までやり切る。
その積み重ねが、接戦の粘りに、タイブレークの強さに、そのまま直結している。

その大きな土台になっているのが、渡邊匠監督の包容力だ。
厳しさと柔らかさ、距離の取り方、言葉をかけるタイミング――
そのどれもが絶妙で、選手たちの芯を育てているように見える。
メリハリの効いた指導は、まるで大きな傘のようにチームを包み込んでいた。

3年ぶりとなる全国選抜の舞台。
強豪がひしめくあの場所で、恵庭の積み重ねがどこまで通用するのか。
派手さとは無縁かもしれない。
だが、派手ではなく“本質”で勝つ――
そんなチームに成長しているように思えてならない。

全国へ向けた挑戦は、もうすでに始まっている。

恵庭リトルシニアの歩みを、これからも見届けていきたい。

元気に声でも引っ張っていた捕手陣(恵庭)
元気に声でも引っ張っていた捕手陣(恵庭)

協力:恵庭リトルシニア

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