苦難の1年を信じ切り、2年連続10度目の全国へ 初回5得点で主導権 岩見沢学童の策を打ち破り、南北海道の頂点に立つ
新ひだか町で開催された高円宮賜杯第46回全日本学童軟式野球大会・南北海道大会は、東16丁目フリッパーズがまた一つ、北海道学童野球の歴史にその名を刻んだ。
決勝で相対したのは、今大会を接戦と粘りで勝ち上がってきた岩見沢学童野球クラブ。守備位置を細かく動かし、相手の強みを消しながら勝ち進んできた好チームだった。
しかし、この日の東16丁目フリッパーズは、その策さえも力で打ち破った。
初回に一挙5得点。三回にも3点を加え、五回にも2点。打線は先発全員安打を記録し、投げては高野恭佑(6年)が5回2失点で完投。東16丁目フリッパーズが岩見沢学童野球クラブを10-2の五回コールドゲームで退け、2年連続10度目となるマック全国大会出場を決めた。
出場回数はついに2桁に到達した。それでも笹谷武志監督(48)の第一声は、派手な勝利の余韻とは少し違っていた。
「まずはホッとしました」その言葉には、名門の重圧と、決して平坦ではなかった1年の重みがにじんでいた。
イニングスコア
◆決 勝(6月22日、新ひだか町三石緑ヶ丘公園球場)
東16丁目フリッパーズ10-2岩見沢学童野球クラブ
東16丁目フリッパーズ
50302=10
00101=2
岩見沢学童野球クラブ
(五回コールドゲーム)
(東)高野ー中本
(岩)渋谷、笹野燈、笹野嵐、對馬、笹野燈、笹野嵐ー中垣
▽三塁打:市橋、小野寺(東)
▽二塁打:橋本、小野寺、山内、池田、原(東)、笹野嵐(岩)
初回、流れを一気に引き寄せた5得点
試合の流れを決定づけたのは初回だった。
東16丁目フリッパーズは一死走者なしから、2番・橋本昊(6年)がライトオーバーの二塁打を放ち、いきなり得点圏に走者を進めた。
続く3番・池田成(6年)がセンター前へ運び、橋本が生還。東16丁目が先制に成功した。
さらに4番・佐藤忠將(6年)がレフト前でつなぐ。岩見沢学童も必死に踏ん張ろうとしたが、東16丁目の圧力はここで止まらなかった。
二死一、三塁から6番・市橋桔平(6年)がセンターオーバーの2点タイムリー三塁打。これで3-0。結果的に、この3点目が決勝点となった。
だが、この日の東16丁目はまだ攻撃の手を緩めない。
7番・小野寺佑亮(6年)がライトオーバーのタイムリー。続く8番・山内奏人(4年)もライトオーバーのタイムリーを放ち、この回一挙5得点。
決勝戦の立ち上がりとしては、あまりにも大きな5点だった。
一つの安打で勢いをつかみ、次の打者がつなぎ、長打で一気に走者を還す。東16丁目の攻撃は、単なる強打ではなく、打線全体で流れを作るものだった。

先発全員安打 強さを見せつけた打線
東16丁目フリッパーズの攻撃は、初回だけでは終わらなかった。
三回には9番・高塚大輝(6年)がセンター前へ2点タイムリーヒット。下位打線からでも得点を奪える厚みを見せた。
五回にも2点を加え、終わってみれば10得点。先発全員安打という結果が、この日の打線の充実ぶりを物語っていた。
岩見沢学童野球クラブは、この大会を通して守備位置を工夫しながら勝ち上がってきた。相手打者の特徴を見て、シフトを敷き、打球方向を読み、守る野球で接戦をものにしてきた。
しかし決勝では、そのシフトの上を東16丁目がいった。
岩見沢学童・森拓実監督(35)は試合後、こう振り返った。
「この大会を通してシフトは組んできました。特に今日は一番シフトを敷いて臨みましたけど、それを逆に打たれてしまいました」
策はあった。準備もしていた。
それでも東16丁目の打球は、その読みを越えていった。
高野恭佑、粘りの完投 優勝投手に
攻撃の大量援護を受けた東16丁目の先発・高野恭佑(6年)は、最後までマウンドに立ち続けた。
三回にはエラーが絡んで1点を失い、五回にもタイムリーを浴びて1点を献上した。それでも大きく崩れることはなかった。
5回を投げ、5安打2四球4三振2失点。数字以上に大きかったのは、序盤を無失点で乗り切ったことだった。
決勝戦では、1点の重みが普段とは違う。ランナーを出すだけで、ベンチもスタンドも空気が変わる。ましてマック全国大会出場がかかった一戦であれば、その重圧はなおさらだ。
笹谷監督も、投手陣については不安があったと明かした。
「正直、不安を抱えている部分はあります。でも今日は先発が立ち上がりからしっかり抑えてくれました」
途中で少し崩れる場面があっても、気持ちを込めて投げ切る。高野の投球には、そんな粘りがあった。
打線の爆発だけではない。投手が踏ん張り、守り、流れを渡さなかったからこそ、東16丁目は最後まで主導権を握り続けることができた。
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「この瞬間をつかめると信じていた」
優勝後、笹谷監督は「ホッとしました」と繰り返した。
名門・東16丁目フリッパーズ。全国でも知られるチームであり、2017年には北海道勢として初の全国優勝を成し遂げた実績もある。
だが、今年のチームは、決して最初から完成されたチームではなかった。
笹谷監督は新チーム発足当初をこう振り返る。
「去年の8月、6年生が一区切りついて新チームが始まりましたが、正直、今年は本当に厳しいなと思っていました」
名門であるがゆえに、勝つことを期待される。全国を目指すことが当たり前のように見られる。
しかし現場にいる指導者の目には、足りない部分がはっきり見えていた。技術、体力、精神面。例年と比べれば、物足りなさもあった。
それでも、笹谷監督は疑わなかった。
「僕たち指導者も、保護者も、選手たちも『こうなれる』と信じていたんだと思います。今日のこの瞬間をつかめるんだと信じてやってきました」
ただ練習を重ねたのではない。
「絶対にやってやるぞ」という思いを、1年間持ち続けてきた。
笹谷監督は「疲れましたけどね」と笑ったが、その笑いの奥には、簡単には言葉にできない積み重ねがあった。
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三拍子そろわないからこそ、長所を伸ばした
今年の東16丁目は、すべてを高いレベルでこなせる選手がそろったチームではない。
笹谷監督も、そこをはっきりと認めている。
「三拍子そろった選手がいるチームではありません。だからこそ、一人ひとりの長所をもっともっと伸ばそうと取り組んできました」
足りない部分を埋めるだけではなく、持っている武器を磨く。
この日の初回の攻撃は、まさにその成果だった。
橋本が長打でチャンスを作り、池田が返す。佐藤がつなぎ、市橋が長打で突き放す。小野寺、山内も続く。
一人のスーパープレーではなく、打線全体がそれぞれの役割を果たした。
笹谷監督は「このチームが勝つためには、こういう形しかないと思っていました」と話した。
例年より投手力に不安がある。ならば、打って主導権を握る。長所を前面に出して勝つ。
その形が、南北海道大会決勝という大舞台で鮮やかに表れた。

「今まで生きてきた中で、一番頑張れ」
試合前、笹谷監督が選手たちにかけた言葉は、たった一言だった。
「今まで生きてきた中で、一番頑張れ」
難しい戦術の話ではない。
細かな技術の確認でもない。
ただ、この一戦にすべてを出せという言葉だった。
その言葉を受けた選手たちは、初回からバットを振り抜いた。大事な場面で硬くなるのではなく、大会に懸ける思いを力に変えた。
笹谷監督はこう語る。
「この大会に懸ける思いの強さだと思います。ただ、その思いが悪い方向に出ると、体が硬くなって重くなってしまう。でも今回は、その気持ちを良い方向へ持っていくことができました」
子どもたちは、監督の言葉を受け止めた。
そして、結果で応えた。
2年連続10度目のマック全国へ
優勝した東16丁目フリッパーズは、8月7日から愛媛県の坊っちゃんスタジアムをメーン会場に開催される全国マクドナルド・トーナメントへ、南北海道代表として出場する。
2年連続10度目。
2020年も優勝しているが、その年は全国大会が行われなかった。笹谷監督は「全国(マック)の舞台に立つという意味では10回目です」と話す。
大会には全国47都道府県から53チームが出場。学童野球における真の全国大会として知られる大舞台だ。
笹谷監督は全国大会への意気込みを問われ、こう答えた。
「全国制覇を目指すと言わないと失礼になると思います。ただ、まずは一戦一戦です」
全国大会の1勝は重い。
笹谷監督は「重いというより、それだけ価値が大きい」と表現した。
まず一つ勝つ。その一つを積み重ねる。その先に、気づけば上が見えてくる。
名門であっても、全国の舞台では簡単な試合など一つもない。だからこそ、足元を見つめながら、東16丁目は再び全国へ向かう。
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高野山旗、FBC、そしてマック全国大会へ
東16丁目フリッパーズの夏は、全国マクドナルド・トーナメントだけではない。
7月25日から和歌山県高野町の高野山内ちびっこ広場ほかで行われる第31回高野山旗全国学童軟式野球大会にも、北海道代表として湧別マリナーズとともに出場する。
高野山旗でも、東16丁目はこれまで好成績(2018年優勝、2012・2016・2021年準優勝)を残してきた。
笹谷監督は、高野山旗についても「もちろん2度目の優勝を目指します」と語る。
ただし、そこでも大切にするのは経験だ。
「全国レベルのチームと戦える機会になります。まずは高野山で1試合でも多く経験を積みたいです」
遠征、宿泊、全国の雰囲気。グラウンドの中だけではなく、生活面を含めて子どもたちは成長していく。
南北海道大会でも宿泊しながら戦ったが、笹谷監督は「遊びに来ているわけではないということは理解して生活できていた」と評価した。
浮かれることなく、戦う集団として遠征を過ごす。
それもまた、全国で勝つために必要な力となる。

岩見沢学童、最後まで見せた意地
一方、敗れた岩見沢学童野球クラブも、最後まで意地を見せた。
0-8と大きくリードされた三回。敵失で走者を出し、一死一、二塁のチャンスを作ると、1番・笹野嵐太(5年)がセンター前タイムリー。まず1点を返した。
さらに1-10と9点を追う五回には、8番・山本楓(6年)がセンター前で出塁。二盗を決め、二死二塁とチャンスを広げた。
ここで再び笹野嵐太がセンター前タイムリーを放ち、2点目を奪う。続く2番・中垣優太(6年)も内野安打でつなぎ、一、二塁とした。
反撃はここまでとなったが、好投手・高野から5安打を放ち、2点を奪ったことは決して小さくない。
初回の5失点、三回の3失点。いずれも連打を浴びたことが痛かった。
それでも、岩見沢学童は最後まで下を向かなかった。
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森監督「もう完敗ですね」
試合後、岩見沢学童・森拓実監督は、潔く言った。
「もう完敗ですね」
その言葉に、言い訳はなかった。
点を取られることは覚悟していた。相手が東16丁目である以上、簡単に抑え込めるとは思っていなかった。
だからこそ岩見沢学童は、この大会で積み上げてきたシフトを駆使し、決勝でも策を尽くした。
「こちらが考えていた策をことごとくフリッパーズさんに上回られたという感じです」
守備位置を動かし、相手打者の打球方向を読んだ。大会を通して、それで勝ち上がってきた。
しかし決勝では、東16丁目がその読みを越えた。
森監督は「今日はすべて笹谷さんの方が上回っていたと思います」と話した。
悔しさはある。
だが、その言葉には相手への敬意もあった。

策を尽くしてつかんだ準優勝
岩見沢学童野球クラブの今大会は、あっぱれの連続だった。
1回戦では余市強い子野球スポーツ少年団を破り、2回戦では強豪・柏ホエールズとの接戦を制し勝利した。準決勝では強打を誇るみゆきフェニックス打線を相手に、柔らかくいなしながら勝利をつかんだ。
力で押し切るだけのチームではない。
相手を見て、守り方を考え、攻撃ではスキを突く。接戦を通して投手陣も成長し、チーム全体で勝ち上がってきた。
森監督は言う。
「決して力があるチームではありません。その中で、何とかいろいろな策を考えながら、みんなで頑張ってここまで来ました」
だからこそ、準優勝には大きな価値がある。
決勝では東16丁目に力を見せつけられた。それでも、ここまでたどり着いた事実は消えない。
森監督は「子どもたちは本当によくやった」と何度も称えた。

徳島遠征、FBCへ 岩見沢学童の夏も終わらない
岩見沢学童野球クラブは、準優勝により阿波おどりカップ全国学童軟式野球大会への出場権を獲得した。
さらに、7月24日から徳島県阿南市などで行われる大会への出場も決まっており、チームは2週連続で徳島遠征に臨むことになる。
森監督は「これからどうやって戦っていくか、みんなで相談して決めていきたい」と話す。
阿南大会が7月末にあり、阿波おどりカップは8月5日から。その間隔はわずか。さらにFBCも重なる。
日程は厳しい。
それでも、岩見沢学童にとって、この夏はまだ終わらない。
「FBCも何とか全道出場を決めたいと思っています」
南北海道大会で得た経験を、次の舞台へどうつなげるか。準優勝の悔しさを、どう成長に変えるか。
森監督は最後にこう振り返った。
「去年の秋から考えると、ここまで来られたこと自体が大きな成長です。何とか食らいついて、全員で戦ってきました。この経験を次につなげていきたいと思います」

信じ切った東16丁目、食らいついた岩見沢学童
決勝のスコアは10-2。
数字だけを見れば、東16丁目フリッパーズの完勝だった。
だが、その中身には二つの物語があった。
一つは、苦しい1年を信じ切り、長所を伸ばして頂点までたどり着いた東16丁目フリッパーズの物語。
もう一つは、決して力任せではなく、策を尽くし、接戦を勝ち抜き、最後まで食らいついた岩見沢学童野球クラブの物語。
東16丁目は、2年連続10度目の全国へ向かう。
岩見沢学童もまた、徳島での全国舞台へ挑む。
南北海道大会の決勝は終わった。
しかし、両チームの夏はここからまた、新しいページへ進んでいく。
協力:北海道軟式野球連盟・日高支部
