最終回に岡本が意地の一発 敗者復活から駆け上がった夏、新発田との絆も力に
中学硬式野球の「第15回日本リトルシニア東日本選抜野球大会」は8月12日、決勝が行われ、大空リトルシニア(北海道)は函館港西リトルシニア(北海道)に5-8で敗れ、準優勝となった。三、四回に失点を重ね、七回にも3点を奪われる苦しい展開。それでも大空ナインは最後まで下を向かなかった。最終回、一死から安齋智哉(網走ポプラクラブ出身/3年)らがつなぎ、岡本大輝主将(遠軽東イースターズ出身/3年)が3ラン本塁打を放つなど3点を返して意地を見せた。日本選手権予選で一度は敗れながら、敗者復活戦を勝ち抜き、この夏に大きく成長した3年生たち。さらに、かつての仲間・藤川瑛士(網走ブルージュニアーズ出身/3年)が所属する新発田リトルシニアとの再会もあった。優勝にはあと一歩届かなかった。それでも、冨田大介監督が創部当初から掲げてきた「見ている人に感動を与える全力プレー」を最後の最後まで貫いた大空の夏は、確かな成長と、人と人とのつながりを残す大会となった。
イニングスコア
◆決 勝
函館港西リトルシニア(北海道)8−5大空リトルシニア(北海道)
函館港西
0032003=8
0010103=5
大空
(函)薮下ー長谷川
(大)小西、武田、深澤、大門ー武田、中村、武田
▽本塁打:薮下(函)、岡本(大)
▽二塁打:岡本、安斉(大)

「堅実な野球」ができなかった悔しさ
試合後、冨田大介監督が最初に口にしたのは、決勝で出た守備のミスだった。
大空が掲げるのは「堅実な野球」。しかし、この日は内野で5つの失策を記録。函館港西に得点を許した三、四、七回には、いずれも内野のミスが絡んだという。
「自分たちがやらなければいけない試合の運び方ができなかった。内野で5つエラーが出て、三回、四回、七回の失点にはすべて内野手のエラーが絡んでいた。『堅実な野球』を掲げている自分たちの野球ができなかったことが、結果的には非常に残念な結果につながったと思います」
決勝という大舞台で、いつも通りの野球を貫くことの難しさを味わった。
一方で、函館港西の投手陣も素晴らしかった。
球威のある真っすぐを軸に高めを効果的に使われ、大空打線は差し込まれてフライになる場面が目立った。
冨田監督も「本当にいいピッチャーだった。何とか打ち崩そうとチームでいろいろ取り組んだが、球威に押し込まれてフライになるケースもあった。最後は食らいついたけれど、そこを打ち崩せなかった」と相手をたたえた。

最後の攻撃で取り戻した「大空らしさ」
それでも、大空の選手たちは最後まで試合を終わらせなかった。
5点を追う最終回。
一死となってからも、打線は諦めない。
安齋が左翼越えの一打を放つなど、途中出場の選手たちも必死につないだ。そして主将・岡本の打球が大きく外野へ伸びた。
本塁打――。
岡本自身、打った瞬間のことはほとんど覚えていないという。
「あんまり記憶がないんですけど、行った瞬間、入ると思いました。本当にうれしかったです」
それだけ無我夢中だった。
函館港西の好投手に対し、ベンチでは速球に振り負けないための狙いを確認していた。岡本も外角球には逆方向への意識を持ちながら打席に入っていたという。
勝敗をひっくり返すところまでは届かなかった。
しかし、最後まで次の打者へつなぎ続けた攻撃こそ、冨田監督が大切にしてきたものだった。
「チームの指導方針として、創部当初から変わらず『見ている人に感動を与える全力プレー』というものがあります。最後は球場に来ている皆さんにも、応援してくれているチームのみんなにも、それを示す攻撃ができたんじゃないかなと思います」
そして、こう続けた。
「結果は残念ですが、胸を張れるゲームをしてくれたと思います」
5-8。
スコアだけを見れば敗戦だ。
だが、最後まで勝負を捨てず、一人ひとりがつないだ最終回には、このチームが3年間かけて育んできたものが詰まっていた。


敗者復活からたどり着いた東日本の決勝
この準優勝だけを見れば、大空の夏の本当の価値は伝わらない。
選手たちは順風満帆に、この舞台までやって来たわけではなかった。
日本選手権予選で敗戦を経験した。
そこから敗者復活戦へ回り、もう一度、自分たちの野球を見つめ直した。
苦しい試合を一つずつものにしながら東日本選抜大会への出場権をつかみ、その後も勝利を積み重ねてきた。
その過程で、主力だけではなく多くの選手が成長した。
冨田監督は言う。
「偏ったチームではなくて、控えの選手も最後のワンアウトから活躍してくれた。本当に3年生みんなが、今大会で成長を見せてくれたと思っています」
誰か一人の力で勝ち上がったチームではない。
大空が掲げるスローガンは、「チーム全員、心一つに全員野球」。
その言葉通り、17人の3年生がそれぞれの役割を背負って戦ってきた。
冨田監督は中学野球を「通過点」と考えている。
だからこそ、勝利だけを求めるのではなく、一人でも多く公式戦のグラウンドに立たせたいという考えを貫いている。
「高校に行って羽ばたいてもらうためにも、公式戦を一打席でも多く、一球でも多く経験させてあげたい。17人の3年生全員で、これからの大会も戦っていきたいと思っています」
勝ちながら育てる。
育てながら勝つ。
簡単なことではない。
それでも冨田監督は、その方針を曲げなかった。
だからこそ、この東日本準優勝には数字以上の意味がある。

準決勝、そして決勝にも――藤川がつないだ新発田との絆
今大会には、勝敗とは別に、忘れられない物語があった。
大空で1年生までプレーし、転校を機に新発田リトルシニアへ移った藤川瑛士。
その新発田も今大会に出場した。
かつて同じユニホームを着て白球を追った仲間が、今度はそれぞれのチームを背負って同じ東日本選抜の舞台に立った。
新発田は2回戦で惜しくも敗退。
それでも彼らの大会は、そこで終わったわけではなかった。
8月11日、大空が宮城大崎との準決勝を戦っていた球場へ、藤川ら新発田の仲間たちが応援に駆けつけた。
奇しくも、その直後だった。
5点を追っていた大空の反撃が始まった。
六回に一挙5点を奪って同点。タイブレークとなった七回に再び1点を勝ち越されながら、その裏に2点を奪って劇的なサヨナラ勝ちを収めた。
冨田監督はその時、こう語っていた。
「藤川が繋いだチームの絆に感謝です!」
準決勝後には、モエレ山をバックに大空と新発田の選手たちが一緒に記念写真に納まった。
そして翌12日。

東日本の頂点を懸けた函館港西との決勝にも、新発田リトルシニアの仲間たちは大空の応援に駆けつけてくれた。
自分たちの試合はすでに終わっている。
それでも帰路につく前に球場へ足を運び、かつての仲間と、その仲間たちへ声援を送った。
大空が5点を追った最終回。
安齋らがつなぎ、岡本が意地の本塁打を放ったその攻撃を、新発田の仲間たちもスタンドから見届けた。
冨田監督は、この縁についてこう語った。
「藤川をきっかけにつながったご縁で、今日もこれから帰るという中で、帰る前にうちの応援に来てくれました。今度はこの仲間たちが高校へ進んで、甲子園でまた再会するかもしれない。この縁は、野球を続けていく中でずっとつながっていくものだと思います」
昨日は一緒に戦った仲間。
今は違うユニホームを着ている。
それでも、野球で結ばれた関係まで変わることはない。
準決勝から決勝へ。
勝ち上がる大空のそばには、新発田の仲間たちがいた。
そして次に彼らが再会するとき、着ているユニホームはまた違っているかもしれない。
冨田監督が思い描くように、その舞台が甲子園になる可能性だってある。
藤川がつないだ縁は、この東日本選抜で終わらない。
そんな未来を想像させてくれる光景が、そこにはあった。
「胸を張って高校へ送り出せる」
冨田監督にとって、この東日本選抜大会はどんな大会だったのか。
答えには、指導者としての思いが詰まっていた。
「この子たちを3年間育てて、次に送り出すことができる。胸を張って高校へ送り出すことのできる成長を見せてくれた。そういう大会でした」
勝利の瞬間には選手と一緒に喜び、苦しい場面では声を張り上げた。
監督自身も喉をからしながら、選手と一緒になって戦った大会だった。
決勝で岡本が放った一発も、冨田監督にとって忘れられない光景になった。
前の打席では大きな飛球が外野手に阻まれた。それでも次の打席では、深く守る外野のさらに向こうへ打球を運んだ。
「本当にいい思いをさせてもらいました。この夏はすごかったです」
その言葉に、この世代と過ごした時間への思いがにじんだ。

岡本主将「支えてくれた人に感謝」
主将としてチームを引っ張ってきた岡本も、敗戦の悔しさをかみしめながら大会を振り返った。
決勝では小西が序盤から懸命に試合をつくった。
「小西がしっかり流れをつくってくれたので、打線で返したいと思っていました。でも今日は打線がなかなかつながらなかった」
それでも最後まで諦めず、自らも本塁打を放った。
そして岡本が大会を通して強く感じたのは、周囲への感謝だった。
チームメート、保護者、後輩、指導者、大会関係者。そして大会を通じて出会い、応援してくれた仲間たち。
多くの人に支えられて、自分たちが野球をできている。
東日本の頂点を懸けた戦いの中で、そのことを改めて感じた。
3年生には、まだ戦いが残されている。
岡本は次の大会へ向けて「本当に優勝を狙っていきたい」と力を込めた。
準優勝をゴールにはしない。
この悔しさもまた、次へ進む力に変えていく。

「最高の大会を経験させてもらった」
冨田監督が最後に口にしたのは、感謝だった。
遠征を支え続けた保護者。
スタンドから声をからして応援した1、2年生。
大会を支えた連盟、関係者。
そして対戦したすべてのチーム。
「本当に最高の大会を経験させていただいて、感謝しかないです。北海道開催の東日本選抜で、北海道同士の決勝戦をすることができた。それを誇りに思っています。本当に大会に携わってくれた皆さんには、大きな経験をさせていただきました」
日本選手権予選で味わった悔しさ。
敗者復活からはい上がった日々。
東日本選抜での快進撃。
宮城大崎との準決勝で見せた、5点差を追いついての劇的な逆転勝利。
そして、準決勝だけでなく決勝にも駆けつけてくれた新発田リトルシニアの仲間たち。
函館港西との北海道勢同士による決勝。
最後は負けた。
だが、下を向いて終わる夏ではない。
「見ている人に感動を与える全力プレー」
冨田監督が選手たちに伝え続けてきたその言葉を、大空ナインは最後の攻撃まで体現した。
東日本の頂点には、あと一歩届かなかった。
それでも、17人の3年生がこの夏に見せた成長と、野球がつないだ絆は消えない。
やがてそれぞれが高校野球の舞台へ進んだ時、この夏に流した汗も、悔し涙も、そして別々のユニホームを着ながらスタンドから声を送ってくれた仲間たちの姿も、きっと彼らの背中を押してくれる。
いつの日か、今度は甲子園で――。
そんな再会を思い描かせてくれるほど、この夏に結ばれた絆は温かかった。
準優勝――。
その結果以上に、大空リトルシニアがこの夏に手にしたものは大きかった。
そして彼らの中学野球は、まだ終わっていない。

協力:大空リトルシニア
