
“誰でも野球ができる場所”を目指して
4月12日、札幌市手稲区・西宮の沢小学校グラウンドでは、元気いっぱいに白球を追いかける子どもたちの姿があった。
取材したのは、今注目を集めている少年野球チーム「札幌イーストフォース・ジュニア」だ。
同チームは2024年5月に発足。活動は週1回のみというスタイルながら、口コミやSNSで評判が広がり、わずか1年足らずで団員数は30名を迫るまでに成長を遂げた。
選手たちの多くは、これまで少年団での野球経験がなかった子どもたち。
「ここなら野球をやらせたい」と保護者に選ばれ、現在は新1年生のみを対象に募集を行っているが、それでも「入りたい!」という問い合わせが相次ぐ人気ぶりだ。
★現在、チーム訪問先募集中です!
お問い合わせは大川まで(090-1524-0465)(strikepro.oh@gmail.com)
<活動>
基本的には土日のいずれかで半日の活動となります。
ただし、試合などが入った場合はその都度、状況に応じて対応します。
<選手>
6年=3人
5年=7人
4年=8人
3年=7人
2年=3人
1年=1人
合計=29人
(2025年4月13日現在)




「野球をやらせたくてもやれない」そんな親子の居場所に
団員の多くは、両親が共働きなど様々な事情により、地元の少年団への入団を断念した家庭の子どもたち。送り迎えや当番、練習参加の負担が大きいとされる少年野球の常識に、悩む親は少なくない。
そんな中、「札幌イーストフォース・ジュニア」は、“誰でも野球ができる場所”を目指して誕生した。代表兼監督の田中勇貴氏も、かつては父親として札幌市内の少年団に2年間携わった経験を持つ。
「野球をやらせたくてもやらせられない現実を、たくさん目の当たりにしてきました。だからこそ、このチームは“野球をあきらめない場所”にしたかったんです。」(田中監督)
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「親の負担ゼロ」からの軌道修正
~関わりたい保護者の思いに寄り添うイーストフォース流~
「親の負担ゼロ」を掲げてスタートした札幌イーストフォース・ジュニア。しかし、実際に活動を重ねる中で、思わぬ変化が生まれた。
というのも、子どもたちの活動を見守る中で、「もっと関わりたい」「一緒にチームを支えたい」という声が、保護者の方々から数多く寄せられるようになったのだ。中には「親もチームの一員です」と真っすぐな気持ちを伝えてくれた保護者もおり、その言葉はチームスタッフの胸にも深く響いた。
「我々としても、親の負担を減らすという理念はあるものの、どこかに違和感を抱いていたのも事実でした」と、田中監督は当時を振り返る。
そこでチームは方針を見直し、保護者との新たな関わり方を模索。あくまで「希望制」としながら、いくつかのルールのもとで練習に関わってもらう仕組みを整えた。具体的には、技術指導は行わず、練習補助や見守りを中心とした“サポートスタッフ”としての関与とし、参加する保護者には専用のキャップを着用してもらうことに。
このキャップには、もう一つの意味がある。関わりたいときに被り、やめたいときには自由に脱ぐことができる——それがイーストフォース流の“親の関わり方”の象徴となっている。
「親の負担ゼロ」は変わらぬ理念として根底にありながらも、「関わりたい」という親心にも柔軟に寄り添う姿勢。それこそが、イーストフォース・ジュニアが大切にしている“家族ぐるみのチーム作り”のかたちだ。

多様性を受け入れる新しい少年野球のカタチ
田中監督が目指すのは、勝ち負けにとらわれず、野球を通じて子どもたちの笑顔と成長を引き出す環境。練習は週1回・半日ほど。怒声罵声は禁止、保護者の当番や差し入れなどの業務負担は一切なし。練習着も自由で、プレー後はハイタッチやガッツポーズが飛び交う明るい雰囲気が特徴だ。
「野球は特別な子だけがやるものじゃない。一人でも多くの子どもたちが、自由に、楽しく、のびのびと野球に触れられる環境をつくっていきたいんです。」(田中監督)
令和の時代にふさわしい、まさに“新しい少年野球のカタチ”を札幌から発信する「札幌イーストフォース・ジュニア」。その挑戦は、これからも続いていく。
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<運営理念> 〜誰もが安心して野球を楽しめる環境づくり〜
令和の新少年野球では、すべての子どもたちが無理なく、楽しく、そして安全に野球に取り組める環境づくりを目指しています。野球本来の楽しさを大切にしながら、多様な家庭環境や子どもたちの個性を尊重した運営方針を掲げています。
具体的な理念
・怒声罵声禁止 … 指導はあくまでポジティブに。大人の声かけで子どもが委縮する環境はつくらない。
・短時間練習 … 学校や家庭、習い事との両立を最優先に。週1回、効率的で楽しい練習を心がける。
・保護者の業務負担ゼロ … 当番・差し入れ・車出しなどの負担を完全撤廃。野球は子どもが主役。
・脱勝利“絶対”主義 … 勝つことよりも挑戦や成長、楽しむ気持ちを最優先に。
・肘・肩の障害防止 … 正しい知識と指導で子どもたちの体を守る。無理な投球は禁止。
・練習時の服装自由 … 汚れてもOK。動きやすさ重視で個性も大切に。
・ハイタッチ・ガッツポーズ推奨 … 仲間のプレーを称え、野球の楽しさや一体感を大事にする文化を育む。
「インフィニティ ベースボールリーグ」
インフィニティ・ベースボールリーグ(INFINITY BASEBALL LEAGUE U-12)は、日本全国で展開される新しい学童野球リーグで、2025年に始動しました。
このリーグは、従来の勝利至上主義を排し、「子どもたちの成長と挑戦」を中心に据えた理念を掲げています
北海道でも先陣を切って墨谷三中、イーストフォースJr.などが参加し、独特なポイント制度を導入し、試合形式で野球を楽しんでいる。


特徴と目的
- 選手の成長を重視:
勝敗よりも子どもたちが試合を通じて成長する機会を提供することに重点を置いています。三振やエラーも次への挑戦として捉える環境作りを目指しています。 - リーグ戦形式:
トーナメント形式ではなく、各チームが自由に対戦相手と日程を調整できる「自主対戦方式」を採用。これにより試合数やスケジュールの柔軟性が確保され、過密日程や投球過多による怪我のリスクを軽減します。 - 全員参加の試合運営:
小学生全学年が楽しめる4つのクラス(CLASS-A~D)を設け、全員出場を原則としたルールや再出場可能な仕組みを採用しています。

「みんな一丸で楽しむ」キャプテン川村丞司の成長と挑戦
札幌イーストフォース・ジュニアの主将・川村丞司(6年)は、チームの一体感を何よりも大切にしている。
バッティングが大好きな一方で、走ることが苦手な自分を変えるため、日々トレーニングに励んでいる。
毎日、お父さんと一緒にランニングを続ける中で、親子そろって成長してきた川村主将。
そんな努力家の主将は、これからも仲間を引っ張りながら、さらなる高みを目指していく。
〇川村 丞司(かわむら じょうじ)
6年・右投げ、左打ち
148センチ、48キロ
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Q1)チームの強みは?
みんながしっかりとチーム一丸となって、野球を楽しんでいるところが強みです。
Q2)主将として一番大事にしていることは?
チームの中で「独りぼっち」を作らないように心掛けています。
もちろん、主将としてチームをしっかりとまとめていきたいと思っています。
Q3)野球の好きなところは?
走・攻・守すべてが楽しいですが、その中でも一番楽しいのはバッティングです。
走るのがあまり得意ではないので、自宅で毎日「スパイダーストレッチ」を続けています。
また、走力とスタミナをつけるために、毎日お父さんと一緒に3~4キロのランニングも行っています。
このランニングの影響はお父さんにもありました。
当時90キロあった体重は、ランニングを続けることでなんと20キロの減量に成功。
その結果、会社のマラソン大会で1位を獲得し、今年は北海道マラソンにも出場予定です。
<発行人>
主将としての自覚と、人としての優しさがにじみ出る。チームの強みを「みんなが一丸となって野球を楽しんでいること」と語る彼は、主将として「独りぼっちを作らない」ことを何よりも大切にしている。その言葉の奥には、仲間を思う深い気持ちがある。
走るのが苦手という自身の弱点を受け止め、克服するために毎日のストレッチやランニングを継続する努力家の一面も。しかも、その取り組みは父親をも巻き込み、親子の絆を深めた。お父さんは20キロの減量に成功し、マラソン大会で優勝、さらに北海道マラソンへの出場も控えるという。まさに家族でつかんだ成果だ。
好きな野球をもっと楽しむために、自分を鍛え、仲間を支える。そんな主将の背中が、チームの成長を静かに引っ張っている。

「選択肢を増やす」——札幌イーストフォースJr.田中監督のまなざし
「子どもたちとその家庭に、野球を始める『選択肢』を増やすことが重要だと思っています」
札幌イーストフォースJr.を率いる田中監督は、静かに、しかし力強くそう語った。
同チームは昨年立ち上がった新しい少年野球チームである。
その活動スタイルは、従来の「勝利至上主義」や「厳しさ重視」といった旧来の考えから少し距離をとり、野球を「楽しむこと」や「子ども一人ひとりに合った成長の機会」を大切にする姿勢が特徴だ。
こうした取り組みは、地域の中で着実に支持を集める一方で、従来の少年団スタイルとの違いが時に誤解を招くこともある。
田中監督自身、そのことは十分に理解している。
「こういうチームができると、昔ながらの活動をしているチームは“悪”だと捉える方もいらっしゃるかもしれません。でも、私は全くそんなふうには思っていませんし、そう望んでもいません」
言葉の端々からにじみ出るのは、対立をあおる意図など微塵もない、まっすぐな思いだ。大切にしているのは、「どんな子どもにも合う環境があること」、そして「家庭にとっての安心感」だ。
現在、少子化や共働き世帯の増加に伴い、少年野球の現場も変化を迫られている。
親の負担軽減、送迎の工夫、活動時間の見直しなど、さまざまな対応を模索するチームが増えているのが実情だ。
そうした中で、札幌イーストフォースJr.のような存在は、「野球をやってみたい」と願う子どもたちにとって、またその背中を押したい保護者にとって、まさに“新しい選択肢”となっている。
「今までのやり方を否定するつもりは全くありません。むしろ、長年にわたって地域の野球を支えてきたチームの皆さんの努力や工夫には、私も敬意を抱いています。その上で、私たちができる形で、子どもたちにとっての“野球の入口”を広げたいのです」
田中監督の言葉には、過去への敬意と未来への責任が宿っている。
大切なのは“正解”をひとつにしないこと。
競技志向の子もいれば、のびのびと楽しみたい子もいる。
野球は本来、どんな子にも門戸が開かれているスポーツであるべきだ。
昨年の春、札幌の地に立ち上がった札幌イーストフォースJr.。
その存在は、少年野球の未来に新たな風を吹き込む、小さくも力強い一歩だ。
田中監督のまなざしが、子どもたちの「野球人生」のはじまりに、あたたかな光を灯している。

協力:札幌イーストフォース・ジュニア