札幌新琴似リトルシニア・新チーム訪問
中学硬式野球で北海道の歴史を語る上で、絶対に外せない存在——札幌新琴似リトルシニア。
11月15日、その名門が歩み出した「新チーム」の現在地を確かめるため、同チームのホームグラウンド・マツダ球場を訪ねた。
札幌市内であれば大まかな戦力や特徴も把握しているつもりではいるが、今年の札幌新琴似は、小学生時代に“ずば抜けていた選手が集まった”とは言い難い。それでもエース・加藤孝明(札幌オールブラックス出身/2年)を中心に躍進している。
そうした中で迎えた今秋の全道大会。札幌新琴似リトルシニアは、Cブロック(札幌大谷、旭川西、恵庭、北空知深川、日高、札幌円山)で3勝3敗・4位。ワイルドカードから決勝トーナメントに進出し、初戦で優勝した札幌北リトルシニアと対戦して2–3の惜敗を喫した。
「足りない点をひとつずつ修正しながら迎えた大会」という指揮官の言葉通り、新チームは短い準備期間の中で課題と向き合い、確かな足跡を残している。
以下、新琴似の“いま”を、試合内容・技術面・指導の歴史・選手の声という4つの視点からレポートしたい。
秋季全道大会の戦いぶりと、札幌北戦の現実
新チームの公式戦本格始動となった秋季全道大会。
札幌新琴似は、Cブロックを3勝3敗・4位で通過し、ワイルドカードから決勝トーナメントに進んだ。
生嶋宏冶監督は、この成績をこう振り返る。
「この子たちとしては、よくやったほうだと思います。しかし、恵庭・札幌大谷・北空知深川という上位3チームからは、合計で2点しか取れていません。チャンスは作っているのに“あと一本”が出ない。突き詰めると、初球を積極的に打ちにいく姿勢が足りない。初球ストライクを見逃しているのが現状です。積極的に“打ちに行く姿勢”をもっと出さなければいけない。」
決勝トーナメント1回戦の相手は、最終的に優勝を飾る札幌北リトルシニアだった。
「選手の力的には正直、かなりうちが落ちるが、札幌北とはいい試合ができた。良しとしなければいけないが、あの試合はやはり2-0で勝ち切る勝負の厳しさを持ってほしい。」
試合は六回二死までノーヒットピッチングを続けたエース加藤を中心に、守備はノーエラー。相手に5つのミスが出る展開の中で、札幌新琴似が2–0とリードして終盤を迎えた。
しかし、勝負どころで“初球への姿勢”の差が出た。
「途中までは勝てる流れでした。ノーアウト満塁のチャンスを2度つくりながら、そこで中軸が打席に立ちながら初球ど真ん中のストレートを見逃し。あそこで1本出ていれば違う展開になっていたはずだ。」
七回、先頭打者にヒットを許すと、生嶋監督はマウンドへ向かい「1点取られてもいい。2点目はやらないように」と伝えた。その後、球数制限で加藤が降板し、2番手・土田がマウンドへ。踏ん張りを見せたものの、試合はタイブレークにもつれ込み、最終的に2–3で敗れた。
「タイブレークでは逆なんだよ、甘い球を初球に投げて、打たれた。チャンスで初球打った札幌北の勝ちでしょう。」
勝っている側は守りに入り、負けている側は捨て身で攻めてくる——。
「勝ったと思った瞬間から負けにまっしぐら」という、野球の残酷な一面がにじむ試合だった。
「相手は厳しく徹底した野球をするチーム。こちらにも良い面と悪い面が出た試合でした。能力があることは示せましたが、“勝ち切る力”がまだ足りなかった。」
加藤が無四球で好投しただけに、「打つ方がなぁ」と悔しさを隠さない指揮官の言葉が印象に残る。
試合スコアは以下の通り。
札幌北(1)2-2(0)札幌新琴似
札幌新琴似 00010010=2
札幌北 00000021=3
※八回タイブレーク
(新)加藤、土田-北川
(北)笠井、宮崎-松野

エース加藤と投手陣——「重心1つ」で変わったボール
この秋、新琴似投手陣の中心にいたのは、エースの加藤孝明(札幌オールブラックス出身/2年)だ。
生嶋監督は、週中の練習で見つけたフォームの課題をこう説明する。
「加藤の投球フォームに“重心の入り方”の課題を見つけたんです。かかとに重心が入り、縦軸がぶれてしまう。そこで、水曜の練習で重心を真ん中に置き直し、ステップで開かず、逆に“少しだけ開く意識”で投げてみるよう修正しました。するとボールの質が変わった。シンプルですが、加藤にとっては大きな修正でした。」
リーグ戦では恵庭・札幌大谷・日高・旭川西戦などでコントロールを乱し、フォアボールが増えてしまったが、決勝トーナメントの札幌北戦では大幅に改善された。
加藤自身も「ファーボールがだいぶ減って、修正できた実感があります」と振り返る。
七回を目前にして崩れる課題を抱えながらも、「自分が投げた試合は勝ち切る投手になりたい」と、来春へ向けた目標を口にした。
一方で、生嶋監督は投手陣全体についても厳しさを忘れない。
「投手陣はエース・加藤孝明、土田隼平(太平スカイラークス出身/2年)、似鳥一真(札幌オールブラックス出身/2年)、内山蓮々(北発寒ファイヤーズ出身/1年)、田村律翔(ウインズ出身/2年)、住谷雄輝(発寒第一ハンターズ出身/2年)と、良いものは持っているが、あともう一歩伸びてこない。」
素材は揃っている。ただ、それを“勝ち切る投手陣”に変えていく作業は、これからの冬のテーマだ。
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打線のテーマは「初球」——得点力不足の正体
生嶋監督の話は、繰り返し「初球」に戻ってくる。
「敗れた翌日、チーム練習で投手を1m前から投げさせ、“初球を打つ練習”を繰り返した。」
「試合での“初球をどうするか”が最大のテーマです。大会後からも常に言っています。打ちに行くべき初球を逃している。チームとして、ここを変えていかなければいけません。」
今秋の打順は、1番・加藤、2番・菰田、3番・萩原、4番・鄭という構成。
加藤は投打の軸として存在感を示しているが、監督は「この打線に代わる新クリーンナップができるのか!? それとも今の中軸が必死に頑張るか」と、伸びしろに期待を込める。
和歌山遠征・静岡キャンプ・関西遠征を通じて、「得点力の底上げ」と「初球からの積極性」をどこまで浸透させられるか——。ここが、新琴似の春以降の姿を左右するポイントになる。

「人を育てる場所」としての新琴似——40年の指導とOBの循環
札幌新琴似リトルシニアの特徴は、単なる“強豪チーム”というだけではない。
その根底には、40年にわたる「人づくり」の積み重ねがある。
生嶋監督のもとからは、これまでに940〜950人以上の選手が高校へ進み、そのうち甲子園出場選手は94人。駒大苫小牧・東海大相模・京都国際・大阪桐蔭・健大高崎など、全国トップレベルの高校で全国制覇を経験した選手も13人にのぼる。プロ野球選手も6人を輩出してきた。
しかし本人の口から出てくるのは、数字よりも「人間教育」という言葉だ。
「野球だけではなく、“人として大事なこと”を身につけてほしい。物事の捉え方、考え方、感謝する気持ち。礼儀はあたり前。そういう土台ができたうえで体力作り。技術は後からついてくる。技術なんて小さいもの。“幹が細ければ、少しの風で倒れてしまう”。だからこそ、幹を太く強く育てたいと思っています。」
OBが親となって子どもを連れてくる。
OBがコーチとしてチームに戻る。
この日の練習でも、生嶋監督の教え子が、自身の息子を体験練習へ連れてきていた。こうした光景は、すでに「何十件もある」という。
「私が教えたOBがコーチとして戻ってくるケースもある。今いるコーチも、普段から支えてくれるOBたちも、みんな教え子です。こうして『人が人を連れてくる流れ』が続いているのは本当にありがたいことです。」
新琴似の強さは、この「循環する人間関係」の中にも見て取れる。

マツダ球場と室内練習場の歴史
現在使用しているマツダ球場は、すでに40年以上、チームの拠点となっている。
室内練習については、昭和61年頃から別の室内施設を借りて行っていたが、その施設が使えなくなったことを機に、現在の丘珠の室内練習場を交渉して確保。平成4年頃から現在の形で使用しているという。
当時の部員数は決して多くはなく、「1学年上は3〜4人ほど」という時期もあった。その時代を知るのが、現コーチの鯨井純氏(53)だ。
「中学1年の時、生嶋監督は林コーチという方の“同僚”という形で最初はコーチとして来られたそうです。当時、1学年上は3~4人ほどしかいなかったと。ただ、翌年にはチームが一気に強くなり、秋の大会を戦えるレベルになったと話していました。」
冬場は新琴似緑小学校の体育館での練習が中心。ボールを使う時間はほとんどなく、走り込みと筋力トレーニング、最後にバスケットボールというメニューが日常だった。
その後、林コーチの転勤、生嶋氏の一時離脱、保護者の強い要望を受けての監督就任——。
そこから札幌新琴似の“黄金期”が始まっていく。
監督就任直後、日本選手権北海道予選で準決勝敗退に終わりながらも、関西で開催された記念大会への出場を決める。中学3年生が4人しかいないチームを、生嶋監督は指導者1人で大阪まで引率した。
開幕戦・奈良県の郡山戦は0-2で敗戦。
これが生嶋監督としての全国デビュー戦となった。
続く秋季全道大会では、後にヤクルトスワローズで活躍する伊林厚志投手を擁する旭川中央に決勝で敗れたものの準優勝。日本選手権ではリーグ戦を全勝で突破しながら、決勝トーナメント準決勝で札幌西に延長サヨナラ負け。「新任監督を神宮に連れていけなかった悔しさ」は、今も語り継がれている。
鯨井コーチ自身は約10年前にコーチとしてチームに関わり、途中で離れた時期を経て、今年8月に再び復帰している。
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主将・似鳥一真——“態度”から変わったチーム
新チームの中心に立つのが、主将の似鳥一真(札幌オールブラックス出身/2年)だ。
あとに優勝する札幌北を追い詰めながら、タイブレークで敗れた札幌北戦について、似鳥はこう話す。
「タイブレークで悔しい負け方をしました。チーム全員で一丸となって戦えていた分、“勝てるかもしれない”という雰囲気の中でミスが出てしまった。そこはまだ練習で伸ばしていかないといけないと思いました。」
チームとしての成長について問うと、「人間性」という言葉が返ってきた。
「自分たちが入部した頃は、私生活も含めて態度がかなり良くありませんでした。でも今では、ゴミが落ちていれば拾ったり、自分から率先して動いたりと、人間性の部分が大きく成長したと思います。」
一方で、プレー面の課題としてはやはり打撃を挙げる。
「他チームはどんどん打ってくるので、まだ自分たちの打撃力は足りないと感じています。この冬から春にかけて、和歌山と静岡の遠征もあるので、そこで“勝てる攻撃”ができるチームにしていきたいです。」
キャプテン像については、2学年上の主将・櫻田英汰先輩の名前を挙げた。
「特別に“こうなりたい”という目標はなかったのですが、櫻田英汰先輩が本当に素晴らしいキャプテンで、自分の中の理想です。櫻田先輩のように視野が広く、チームをしっかりまとめられるキャプテンになりたいと思いました。」
理想とするチーム像は「打ち勝つ野球」。
「ガンガン打って、守備もしっかり守って、強豪相手にも打ってコールドで勝利するようなチームが理想です。」
1年生が多いチーム事情もあり、キャプテンとしての工夫も欠かさない。
「全体が一つに固まり過ぎてしまう傾向があります。そうならないように、選手を分散させて役割を持たせるよう心掛けています。」
投手陣については、「加藤は安定しているが、2番手・3番手が整わないと勝ち切れない」と指摘し、「集中力が入らない時は全く入らない」というチームの弱点も率直に語った。
自らについては「基本は6、7番を打っている」と紹介し、和歌山・静岡遠征では「優勝よりも、この冬積み重ねたバッティングをどれだけ発揮できるか」を目標に掲げる。
最後に、チームに望む姿をこうまとめた。
「もっと元気よく、連携を取り、要所でしっかり点を取り切れるチームを目指します。」
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三原慎一朗・菰田隼風・津田篤人——“要”を担う野手たち
内野の要・三原慎一朗(北発寒ファイヤーズ出身/2年)は、秋季全道大会をこう振り返る。
「チーム全体として、取れるアウトを取り切れなかったり、投手を助けるプレーができなかった場面が多かった」と守備面の課題を挙げ、「バッティングの向上が鍵」と語る。
「体重を増やすことや、基礎的な部分をもっと積み重ねたい。チーム全体でも“自分たちで良くしていく雰囲気”ができてきた。大会が終わってからは、みんな気持ちを切り替えて前向きに練習に取り組んでいます。」
自身を「チームの軸になる存在」と位置づけ、「声でもプレーでも引っ張っていけと言われている」と自覚を口にする。目標は「絶対に全国へ行き、必ず結果を残すこと」だ。
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外野の要・菰田隼風(八軒東和グッピーズ出身/2年)は、秋の戦いを「心の余裕」という言葉で表現した。
「1点差や2点差の場面になると、どうしても余裕がなくなってピンチを作ってしまう。逆に点差が開いた時は、少し気が緩んでしまうことがあった。」
「2番・レフトとして、自分が必ずチャンスをつくることが仕事」と語り、「限られた練習時間の中で素振りを重ね、外野の頭を越える打球を増やしたい」と、課題に向き合っている。
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二塁を守る津田篤人(幌西フェニックス出身/2年)は、6番・二塁手として秋の大会を戦った。札幌大谷戦では0-2の場面、一、三塁からレフトオーバーを放ち、三塁走者が生還。一走も本塁を狙ったが本塁でタッチアウト。それでも本人にとっては「最も印象深い打席」だという。
現在は腰のケガでグラウンド練習に参加できていないが、順調にいけば1月の和歌山遠征には間に合う見込みだ。持ち味はバッティングにおける長打力。復帰後の働きが楽しみな一人である。
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1年前の自分へ、そして後輩へ——「危機感」と「時間」が教えてくれたこと
チーム訪問の終盤、現3年生の2人に、1年前の自分へ、後輩へのメッセージを聞いた。
ひとりは其田陽輝(そのだ はるき)。
札苗スターズ出身、右投げ左打ち、179cm/83kg。サードを守り、長打力のある打者だ。
「自分に言うなら、“もっとキャッチボールや素振りなど、基礎をしっかり固めておけ”ですね。和歌山遠征でも勝てなくて、基礎の不足を痛感したので、あの頃の自分に強く言いたいです。」
北ガス杯・札幌大谷戦でのレフト前同点打や、少年団時代の元チームメイト・阿部唯人君から放った「もう少しでホームラン」というスリーベースなど、勝負どころでの一打が印象的な選手だ。
もうひとりは、中根翔(なかね しょう)。
西発寒ホークス出身の左投げ左打ち。169cm/64kg。外野と投手を兼ね、チームのムードメーカーを自任している。
1年前の自分に戻れるなら、こう声をかけたいと話す。
「“危機感を持て!”と伝えたい。この時期は秋季大会が終わって3位になり、全国大会出場も決まったんですが、そのことに満足してしまって、今考えれば練習もだらけてやっていた。まだ時間はあると思っていた。しかし、和歌山大会、全国選抜大会を迎えた時、全然勝てなくて、力の差というよりも個人の意識の低さを感じた。“もっと必死にやらなければダメだ!”と伝えたいですね。」
中根は、後輩へこう語りかける。
「2年生以下は、引退までの時間は思っているより全然ありません。その“限られた時間”の中で、1日をどう過ごすかで本当に差がつくと思います。」
「中学の野球って、本来は基本をしっかりしていればレベルが高くなくても戦える。でも、個人の基準が低いままだと、どんなに頑張っても勝てないと感じました。」
印象深い試合として挙げたのは、ゼット杯決勝の大空戦だ。
「6回に4-4の同点から相手に走者一掃のタイムリーを打たれ、勝ち越しを許してしまった。いつもの自分たちなら、そこで打てずに負けるというのがこれまでの戦いだったが、最後の試合ということもあり、みんな気合が入って、最終回につないでつないで逆転して優勝したことが印象に残っています。」
「自分自身の成長でもあり、チームの成長を強く感じた試合でした」と振り返る姿には、“最後の1年”を戦い抜いた重みがあった。
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冬から春へ——新琴似の“次の一歩”
1年生は47人。
来年の秋季全道大会からは2チームエントリーが可能となる。現在の1年生が最上級生となるタイミングで、新琴似は新たなステージに踏み出すことになる。
冬から春にかけては、
・1月:和歌山遠征
・2月:静岡県でスプリングキャンプ
・3月:奈良西・五條・神戸中央などとの関西遠征(4泊5日・うち1日は甲子園観戦予定)
と、実戦を通じた強化が続く。
「チームとしてもう一段上を目指していきます。」
生嶋監督の静かな一言には、40年積み重ねてきた歴史と、今の選手たちへの期待が重なって響いた。
札幌新琴似リトルシニア——。
豪華なスター選手が揃っているわけではない新チームだが、「人を育てる文化」「勝ち切る力を身につける」という明確なテーマを胸に、冬のトレーニングに向かっていく。
この冬の積み重ねが、和歌山・静岡・関西、そして来夏の北海道でどのような“結果”として表れるのか。
新琴似の新しい物語は、すでに始まっている。


協力:札幌新琴似リトルシニア
