広がる受け皿と深化する指導・大坂監督インタビュー
11月30日、中学女子軟式野球クラブチーム「JBC北海道」を訪問した。長年“JBC札幌”として活動してきたチームは、来季より名称を「JBC北海道」へと変更。これまで以上に“北海道全域の女子選手が集えるチーム”として歩みを進めている。指揮を執るのは、同チームでのコーチ経験に加え、女子学童野球・北海道スノーホワイトの監督として12年間指導を続けてきた大坂聡監督だ。
この日は主将の新名乃々花(末広・近文合同チーム出身/2年)が不在だったため、副主将の荒井紬希(富原ドルフィンズ出身/2年)、最上級生の小林美月(阿寒クレインズ出身/3年)にも話を聞いた。札幌・北広島・千歳・岩見沢・豊浦から多くの体験選手も参加し、まさに“道内全域へ開かれたチーム”としての姿が感じられる練習日となった。
「JBC北海道」へ名称変更――“札幌のチーム”から“北海道全体のクラブ”へ
11月30日、JBC北海道の練習会場には、札幌・北広島・千歳・岩見沢・豊浦と、道内各地から選手たちが集まっていた。従来は「JBC札幌」として活動してきたが、正式には来季から名称を「JBC北海道」へと刷新。より広域に門戸を開くための象徴的な一歩だ。
大坂監督は、この変更の理由をこう語る。
「“札幌”とつくと札幌近郊のチームという印象になりますが、実際は釧路市、旭川市、室蘭市、仁木町などからも選手が来てくれています。平日は地元で、土日に集まる形なので、北海道全体のチームという認識をもっと強くしたかった」
活動スタイル自体は以前から変わらない。
ただ、受け皿としての広がりを明確に打ち出したことで、道内の女子選手にとってより参加しやすい環境となった。


土日は全体練習、平日は各自で――だからこそ「個の力」を伸ばす
JBC北海道の特徴は、道内各地から選手が集うことで、全員が揃うのは基本的に週末のみという点だ。
「平日に全員が揃うのは現実的に難しいので、まずは“個々のスキルアップ”が最優先になります。連携強化も大事ですが、それ以上に、一人ひとりの能力をしっかり伸ばすこと。これが指導の軸です」
週末集中型のチームにおいて、“個の成長”は何よりも重要なテーマとなる。


女子選手の成長曲線に合わせた指導
女子は男子と比べ、成長のタイミングや身体の変化が全く異なる。
大坂監督は、その違いを熟知したうえで指導を行う。
「女子は中学2年あたりから身長の伸びが鈍化し、体つきも横に広がり、女性らしい身体に変わっていきます。一番伸びるのは小学6年生から中学1年生の時期。男子とは全く違うサイクルです」
だからこそ学年ごとにアプローチを変える。
小学6年・中学1年: とにかく多くのことを経験させ、できることを増やす時期
中学2年: 既に持っている力を磨き、質を上げる時期
中学3年: 身体の変化が落ち着き、役割と自覚を持ってプレーする時期
「女子の場合、中2から中3で急激に10〜15センチ伸びる子はほぼいません。身体が変わると、できる野球のスタイルも変わってきます」
女子野球を長年見てきた大坂監督ならではの視点だ。
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監督としてのスタイル――“楽しくなければ続かない”
大坂監督が何より大切にしているのは「続けられる環境」だ。
「まだ立ち上げ段階なので強いこだわりはありませんが、ひとつだけ言えるのは“楽しくなければ続かない”ということ。男子のように上から押す指導は女子では通用しないことが多い。前向きに取り組める雰囲気づくりを心がけています」
技術だけではなく、気持ちの面も含めて選手に寄り添うスタイルだ。

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北海道の女子クラブチーム事情と代表経験
現在、道内で中学生女子だけで活動しているクラブは4チームほど。
地域による環境差は大きいが、JBC北海道はその受け皿として期待されている。
さらに今季、JBC北海道の選手からは「ベストフレンドマッチ四国2025」へ8名が北海道代表として出場した。
中心は以下の3名。
- 新名乃々花(末広・近文合同チーム出身/2年)
- 荒井紬希(富原ドルフィンズ出身/2年)
- 山下紬(西部ホワイトファング出身/2年)
いずれもU-15女子北海道選抜のメンバーだ。
加えて、
- 林紗良(JBC札幌出身/2年)
- 鈴木美知瑠(東川下ジャイアンツ出身/1年)
- 上中歩那(北郷サラブレッツ出身/1年)
- 高橋美乃(北郷サラブレッツ出身/1年)
が選抜され、 - 小林美月(阿寒クレインズ出身/3年)
は3番打者として全国第3位に貢献した。


キャプテン・新名乃々花の成長
大坂監督は新名主将について、
「もともと大人しいタイプでしたが、実力がつくにつれて『自分が引っ張らなきゃ』という自覚が芽生えてきた。そこが大きな成長です」
と語る。
新名は、捕手・投手・外野手
を務める万能型で、全国大会ではダイレクトで92mポールに打球を当てるパワーを持つ。
副主将2名――荒井紬希・山下紬
遊撃の要である
荒井紬希(富原ドルフィンズ出身/2年)
三塁手兼投手としてチームを支える
山下紬(西部ホワイトファング出身/2年)
この2名が副主将を務める。
「この2人が上位を打ってくれないとチームとしては苦しくなります。それだけ信頼している選手たちです。性格も素直で、こちらの意図や要求にしっかり応えてくれる選手です。」
チームの精神的支柱でもある。
投手陣は5枚看板――役割を分けて戦う
来季の投手陣は5人。それぞれタイプが異なるのが強みだ。
新名乃々花(末広・近文合同/2年):パワーピッチャー
奈良柚季那(島松ジュニアイーグルス/1年):制球力型
國崎真央(北都タイガース/1年):重い球質のパワー型
鈴木美知瑠(東川下ジャイアンツ/1年):バランス型
山下紬(西部ホワイトファング/2年):コンビネーション型
「ショートイニングでつないで最少失点をめざします。力のある投手、コントロール型、役割分担で戦えます」
新名は投げないときに捕手と中堅も兼務する器用さを持つ。
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捕手陣――“試合を作れる捕手”を育てる
JBC北海道の捕手陣は3名。
新名乃々花(末広・近文合同/2年)
岡村明星(栗山ロッキーズ/2年)
上中歩那(北郷サラブレッツ/1年)
「岡村は打撃が良く、上位を打てる捕手。投手に安心感を与えるタイプ。
上中はキャッチャーらしいキャッチャーで、今後は他ポジションも適性を見ながら。
捕手育成は難しいが、状況を読んでゲームを作れる捕手に育てたい」
投手陣との相乗効果で守備力を高めていく。
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副主将・荒井紬希 インタビュー(富原ドルフィンズ出身/2年)
荒井選手は自身をこう語る。
「打撃は単打中心でチャンスをつくるタイプ。守備は三遊間の処理が得意です」
副主将として意識しているのはチームの“空気”。
「全中を目指すために、冬練習から声を出してチームの雰囲気づくりを大事にしています。新名主将を、私と山下で支えていく存在になりたい」
チームの強みについては、
「点が取れる選手が揃っていて、打線につながりがあります」
と分析する。
目標は明確だ。
「全中女子北海道予選を優勝して、全国大会へ。そして全国制覇です」
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〇荒井 紬(あらい つむぎ)
JBC北海道/2年
右投げ・右打ち/154センチ
2歳上の兄の影響で小学1年生から野球を始め、釧路市内の富原ドルフィンズでプレーしてきた。家族は両親と兄の4人家族。
現在はチームで副主将を務め、主将を支えながらチームを牽引する存在。
プレースタイルは長打というよりも、強い単打を心掛ける確実性の高いバッター。
守備ではショートを任され、広い守備範囲と安定した守備力で内野陣の要となっている。
中学3年・小林美月インタビュー(阿寒クレインズ出身/3年)
全国第3位のチームを支えたスラッガー。
「選抜大会前の練習でふくらはぎを痛めてしまいました。1年前の自分に言えるなら『準備運動をもっとしっかりやれ』と言いたいですね」
悔しさも経験した。
「ヒットが全然打てなかったので『毎日の素振りをサボるな』とも言いたいです。でも、野球は本当に楽しいから『絶対続けろ』とも伝えたい」
後輩へは、
「良いメンバーの中で野球ができるので、思いきり楽しんで、自分が行きたい高校を選んでほしい。流されず、自分のやりたい野球ができる場所を選んでください」


〇小林 美月(こばやし・みつき)
右投げ左打ち。
3年時は主将としてチームをけん引。打線では中軸を担い、守備では外野手として広い守備範囲と的確な指示で守備陣をまとめ上げた。高知県・愛媛県で開催された「ベストフレンドマッチ四国2025」では3番打者として主力として存在感を示した。
野球を始めたきっかけは小学2年生の頃、姉の影響で阿寒クレインズに入団したこと。
家族は両親と姉、妹の5人家族。
目標は“全国上位”――まずは代表権獲得から
これまで全国大会では「1勝できるかどうか」という位置にあったJBC札幌だが、大坂監督は目標を明確にしている。
「まずは北海道代表の座を勝ち取り、全国上位を目指したい」
名称を変え、受け皿を広げ、指導を深化させ――
JBC北海道は“道内女子選手の中心的存在”として、確かな歩みを進めている。

協力:JBC北海道
