
第29回全国高等学校女子硬式野球選手権大会で、創部3年目の旭川明成高校女子硬式野球部が春の全国ベスト8の強豪・クラーク記念国際仙台キャンパスにタイブレークの末、1-5で惜敗した。だが、その戦いぶりは、数字では語れないほどに眩しく、鮮烈だった。エース糠谷香苗(JBC札幌出身・3年)を軸に、守備で粘り抜いた全員野球。結果以上に得たものが大きかった“夏の物語”が、淡路島の空に刻まれた。
粘りの投球と光る守備、堂々の全国初戦
創部3年目での全国挑戦。初戦の相手は春の全国大会ベスト8・クラーク記念国際仙台キャンパス。序盤は毎回のように走者を背負う苦しい展開ながら、先発・糠谷香苗(JBC札幌出身・3年)が冷静にマウンドを守り続けた。二回には自らの牽制で走者を刺すなど、守備陣も好プレーで応戦。四回までノーヒットながら0-0の均衡を保った。
六回、失策から1点を先制されるも、その裏すぐさま反撃。一死二塁のチャンスで1番・野口聖奈(Gratias wish BC・3年)が中前打でつなぎ、続く2番・飯泉百華(札幌シェールズ出身・3年)がスクイズを決め同点。七回を終えて1-1、大会規定により八回からタイブレークに突入した。



タイブレークの悔しさと、勝負への覚悟
延長八回、ミスが重なり一挙4点を失い、万事休す。八回裏は7番からの攻撃だったが、得点には至らず1-5で敗退となった。
だが、この一戦は単なる“惜敗”ではなかった。試合を通じて見せた粘り強さ、細かな守備の連携、そして一体感ある全員野球。目標には届かなかったが、3年生を中心に「守って勝つ」スタイルに転換してきた6・7月の努力が実を結んでいた。
ライト・斉藤陽(Gratias wish BC出身・3年)の度重なるランニングキャッチ、櫻井妃愛捕手(札幌シェールズ出身・3年)の二塁送球、糠谷の2度の牽制死。どのプレーも、チームの成長を映す輝きに満ちていた。

キャプテン谷詰の変化と3年生の背中
このチームには、突き抜ける“強さ”が必要だった――そう語った大場優監督は、主将・谷詰実紀依(札幌シェールズ出身・3年)に一時キャプテンを外し、再び任命した経緯を明かす。再び託された谷詰は、自らが先頭を切ってチームを引っ張る覚悟を持った。3年生たちの「自分たちでチームを創る」という気概が、今大会の土台となった。
大場監督は「バッテリーの糠谷、櫻井は人間的に最も成長した。勝つときも負ける時も糠谷がいた」と語るように、この代の中心は明確だった。その信頼に、3年生たちは全力で応えた。

「目的は達成した」――それぞれの未来へ
旭川明成には「日本一」という目標に加え、3つの“目的”がある。
1つ、「女子野球の発展」。
2つ、「歴史を変える」。
3つ、「支えてくれた人への恩返し」。
「彼女たちは目標こそ届かなかったが、目的は間違いなく達成した。女子野球に夢と感動を与えたと思います」と、大場監督は胸を張る。
そして最後に選手たちにかけた言葉は、こんな一言だった。
「人生はまだ二回裏が終わったばかり。これから三回表。人生のスコアボードに、それぞれしっかりとを刻んでいこう」
旭川明成の“夏”は終わった。
だが、選手たちの“物語”は、ここから本当のプレーボールを迎える。
同校は23日に北海道へ帰り、帰道後、ラストミーティングを経て代替わりが行われる予定だ。


協力:旭川明成高校女子硬式野球部